Ethereum のブロックチェーンは、2015年7月30日のジェネシスブロック(ブロック番号0)と呼ばれる最初のブロックに始まり(https://ethereum.org/en/history/#frontier)、現在までおおよそ12秒に1個のブロックが追加されている。各ブロックの内容は、トランザクションの記録等であるが、Ethereum ネットワークの混雑具合等によって1ブロックに収まる情報量、すなわちブロックサイズは変化する。
その結果、ジェネシスブロック(ブロックサイズは540 byte)に始まるブロックのサイズはまちまちであり、利用度が上がるにつれ平均サイズは徐々に増えているようである。
まずはブロックサイズの列を具体的に見てみよう。
こちらは、2023/8/26 の 18000000 番ブロックからの情報である。各 timestamp の差を見るとわかるように、おおよそ12秒ごとにブロックが追加される。また、ブロックサイズはある程度バラバラであることもわかる。ちなみに、ジェネシスブロックを含む部分は次のようになる。ジェネシスブロックの timestamp は 0 であるので、1970/1/1 となってしまっているが、実際には、2015/7/30 15:26:16 UTC くらいである。ブロックサイズが先のものに比べてかなり小さいことがわかるだろう。
ブロックサイズの分布を見てみよう。ジェネシスブロックから始まる最初の10万ブロックについて、そのサイズの分布をみると次のようなヒストグラムとなる。
Mode と Count に注目すると(この範囲において、最も多く見られたブロックサイズとその個数)、この範囲には 544 byte のブロックが9569 個あることがわかる。また、平均ブロックサイズは 623.35 byte であって、最大値は 16955 byte、最小値は 514 byte で、二桁の開きがある。
2020年5月頃(ブロック番号 10000000 から10万個)、さらには2023年4月頃のブロック(ブロック番号 17000000 から10万個)のブロックのサイズの分布を見てみると次のようになる。
これらをみるとかなり初期の頃と違うことがわかる。2023年4月頃については、平均サイズは 116358.38 byte であり、初期の約186倍になっている。分布の形としては、対数正規分布のように見える。
ブロックサイズについてその分布の特徴は、最大値と最小値の差が大きいこと。平均値近くのサイズを持つブロックが比較的多いが、極端に大きなサイズのものが若干数存在する。縦軸を log scale にしてみる。
このように、平均値と最大値の間には、約10倍の差があることがわかるが、そのような巨大なブロックは数個しかないことがわかる。このような性質は、Ethereum ブロックチェーン全体で見られるため、普遍的な性質であると思われる。
Blockchain Jewelry Concept の作品は、Ethereum Blockchain の Block size を用いて造形されている。具体的には、ある区間にある連続するブロックのブロックサイズの列を造形に利用する。また、ブロックにはタイムスタンプがあり、それらはそのブロックの作成された時間であり、ブロックサイズの列とそのタイムスタンプから、時間を結晶化したオブジェクトが作られる。
作品、[Spiral Manifold] については、1000個の連続するブロックサイズを用いて造形されている。例えば、ブロック番号 16213000 のブロックを考える。このブロックのタイムスタンプは、2022-12-18 17:13:59+00:00 であり(タイムスタンプは、UNIX時間で表現されており、世界協定時1975年1月1日からの秒数となっているが、それを UTC に変換したもの)、これは、UTC世界協定時であって、このブロックがブロックチェーンに追加された日時を示す。このブロックから続く1000個のブロックサイズの並びを考える。最後のブロック番号は 16213999 であり、タイムスタンプは 2022-12-18 20:34:47+00:00 である。つまり、これら1000個のブロックサイズの並びは、2022-12-18 17:13:59+00:00 から 2022-12-18 20:34:47+00:00 の約3時間に対応する。ブロックサイズにはランダム性があることから、これら1000個のブロックサイズの並びは、ほぼ unique であると言える。
そのブロックサイズは、1000個のブロックサイズの平均値によって正規化され、球体の体積として表現する。さらには、色はブロックサイズを256で割ったあまりを HSB カラーモデルの Hue(色相)として利用する(色相は0から255の整数値で表現されるとする)。また、ブロックサイズが奇数であるか、偶数であるかで軌道の捩れ具合を変化させる。このようなルール、アルゴリズムによって作成されたオブジェクトが以下のようなものである。基本的に、ブロックサイズのランダム性以外にランダムな要素は加えていない。ジェネシスブロックから 1000個ずつブロックサイズを利用して作成するため、こちらの作品の番号は #16213 となる。
カラフルでダイナミックな造形である。これらは、先の時間の間隔において Ethereum 上での活動の結果として刻まれたデータのサイズであり、その時間範囲を表現するオブジェクトである。
異なる時間範囲についても見てみよう。次のオブジェクトは、2023-05-10T02:20:23+00:00 から 2023-05-10T05:42:11+00:00 の時間範囲を表現するものである。作品番号は、#17227 である。
このように、時間範囲によって造形が異なることがわかる。こちらの作品では、上の方の球体サイズが大きい。これは、この時間帯の Ethereum 上での活動が活発であったためであろう。
次に、Ethereum ブロックチェーンの歴史によってその見た目が異なってくることを示しておこう。次のオブジェクトは、作品番号 #0 となるものである。
これは、ジェネシスブロックを含むものであるが、先のブロックサイズの分布からわかるように、この頃のブロックチェーンのブロックサイズは 500 byte 近くのものが多く、結果として同じようなサイズ、同じような色合いとなっている。サイズの変化もあまりない。
ちなみにジェネシスブロックのタイムスタンプは 0 であるため、それを正直にUTCに変換すると、このオブジェクトが表す時間は、1970-01-01T00:00:00+00:00 から 2015-07-30T16:02:17+00:00 ということになる。
実際には、2015-07-30T16:02:17+00:00 のおおよそ3時間前がジェネシスブロックが作成された時間であろうと推測される。
以下が、#100 の造形であり、徐々に色数も増え、Ethereum ブロックチェーンの変化が、その造形に現れることも、本作品の面白いところである。
次のオブジェクトは、Ethereumブロックチェーンの重要な転換点、Paris(The Merge)(https://ethereum.org/en/history/#paris)の瞬間を可視化している。
The Mergeは2022年9月15日の6:42:42 AM +UTCに行われ、その時点のブロック番号は15537394でした。このオブジェクト#15537は、ブロック番号15537000から15537999までの各ブロックのサイズで構成され、2022年9月15日05:07:42+00:00から2022年9月15日08:45:59+00:00までのEthereumブロックチェーンを効果的に表す。
これはThe Merge イベントに対する最適な記念碑ではないでしょうか?
[Spiral Manifold] の造形は、Ethereum ブロックチェーンのブロックサイズを造形に直接変換したものである。ブロックチェーンは、記録を永続化するものであって、その改変が原理的にほぼ不可能であるという技術的な側面がある。この事実により、ブロックチェーンのブロックサイズの羅列が、ある時間範囲を一意に決定すると言え、それから直接作成される造形は、ある時間範囲をを一つの造形物として結晶化したものであると言えるだろう。
[Spiral Manifold] は、Blender によるレンダリング画像に加えて、3Dモデルとしての GLB ファイルへのリンクを内包したNFTとして提供される。ここに示したように、ブロックサイズの多様性ならびにカラフルさを表現するために、あえてリアルライフの造形にこだわらず、今後よりメジャーになるであろうメタバース等での活用を想定している。
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